保育コンサルタントの杉江です。

さて今回は、【学童保育民間委託の問題点について】ということについてお話をしていきたいと思います。

本ブログ(著者・杉江)の具体的な信頼性は以下になります。

  • 保育士を取得後、20年以上にわたり保育事業に従事している。
  • 民間学童保育を創業し、5年間経営者として事業に携わる。(アフタースクール寺子屋 目黒区碑文谷3-1-4-16)
  • 民間学童経営者として、5年間で登録者数2名→100名、通期黒字化を達成する

さて最近、関西方面の学童運営受託法人で、職員の雇い止めについて問題が起きてしまっています。
単純に、なぜこの様なことが起こるのでしょうか?
個人的にはこのビジネスのスキーム自体に様々な問題点があると感じているのですが、一般の方にはわかりにくいかもしれません。

以前の、公設民営学童・民設民営学童(民間学童)の違い~経営をする上でのメリット・デメリット選ぶ際の基準等の回で公設民営学童のデメリットとして少し触れてはいますが、今回は「学童保育の民間委託の問題点」を深掘りしていきたいと思います。
(今回ここでは、地方自治体・公務員の方以外を「民間」と呼ばせて頂きます)

学童保育運営委託の問題点の結論【職員の給与が低いまま・離職率が上がることでの保育の質の低下・自治体の責任の分散】

 

では今回の問題点の結論です。
学童保育運営委託の問題点はタイトルの通りの3つになります。

現場職員の給与が低いまま上がらず離職率が上がる事で、知識や経験の蓄積・持続性がなくなり、保育の質が低下する。
また何か大きなトラブルや利用者との行き違いがあったときに、その責任の所在が分散することにより曖昧な決着になってしまう。

ということに尽きると思います。
特に個人的には、従業員の給与が低く、その低いままの状態が継続してしまうことが一番の問題点であると思っています。

以上、上記三つが大きな問題点としてあると私自身は感じており、そこには表に出る事と出ない事を含め大小様々な問題が存在をしています。

今回はこれらのことを一個人の意見として細かく話していき、少しでも多く方に学童民間委託の問題点について理解をしてもらえたら嬉しく思います。

自治体による、学童保育民間委託とは何か?【いわゆる自治体からの学童運営の下請け。市区町村が直営で運営していた学童保育を、民間の法人に委託料を払うことで全般的に運営を任せること】

 

では続きまして、そもそも学童保育民間委託とは何かと言うお話をしていきたいと思います。

タイトルにもあります様に、学童保育民間委託とは、

「いわゆる自治体からの学童運営の下請け。市区町村が直営で運営していた学童保育を、民間の法人に委託料を払うことで全般的に運営を任せること」

ということになるかと思います。

普段地域にある「区立・市立・町立・村立」の学童保育は、一見公の直営の学童様に見えますが、今は民間の企業・法人に委託されて運営されているという場合も多いです。
すなわち、働いている従業員は、公務員ではなく民間の従業員ということになります。

自治体からの下請けで、民間法人が公立の学童保育を運営している。
その辺り、まずはご理解をいただけましたらと思います。

なぜ自治体による民間委託が行われるのか?【自治体の学童運営事業費を削減したい思惑と、運営受託し安定的な委託料で経営をしたい法人代表の思惑が一致しているため】

 

では続きまして、なぜ自治体による民間委託が行われるのか?というお話です。
タイトルにもあります様に、

「自治体の学童運営事業費を削減したい思惑と、運営受託し安定的な委託料で経営をしたい法人代表の思惑が一致しているため」

ということになります。

まずは運営を委託する、自治体側の立場で考えてみたいと思います。
自治体が直接運営をする場合、地方公務員としての雇用となりますので、人件費がどんどん膨れ上がっていくことになります。
財政難の自治体が多いと言う現状で、その負担を少しでも軽くしたいと言う自治体の思惑があります。

私の個人的な感覚で言うと、学童運営にかかる経費は、約半分くらいで委託されているのではないかと思います。
約半分経費が削減できるとなれば、自治体にとっては本当にありがたい話ですよね。
ですので、運営委託は自治体にとっては非常にありがたい制度となるわけです。

そしてもう一つ、自治体にとって大きなメリットは、

「責任の分散」

ということが考えられます。

何か大きな事故やトラブルがあった時、最終的にな責任はもちろん選定をした地方自治体にあるのですが、運営自体は民間法人が行っているので、そちらにも責任が発生をします。
ですので自治体としては、悪く言えばトラブル時は民間法人のせいにもし、責任を散らすことも可能なわけです。

こうしたことはどこにも書いてないですし、誰も発言はしませんが、長く携わった私の感覚としては大いにあるのかなと感じています。

続いて運営を受託する民間法人の立場から考えてみたいと思います。
受託する民間法人にとって、自治体から定期的に決まった額が振り込まれる委託料と言うものは非常に魅力的です。

基本的には集客と言う作業はせず、自治体が集客をしてきた利用者に対し、普通に保育を行うだけで決まった委託料がもらえる。
民間学童保育の代表取締役を務めた私からすると、経営的にこんなにありがたいものはありません。
(これは会社経営をした方なら、お分かりただけると思います)

何があっても税金から委託料もらえると言う事は、非常に大きなメリットがあります。

また付属的なメリットとしまして、自治体と直接取引をしている・受託していると言うことで、会社にとって社会的貢献度が高いと言うブランディングもできると言う面もあります。
以上のような思惑が重なり、自治体の運営委託と民間法人の運営受託と言う構図が成り立つということになります。

しかしこれはあくまでも自治体と法人の経営者のメリットのお話。
この形は大きな問題点もあります。
そのことは、次の項目でお話をします。

学童民間委託の最大の問題点とその理由【従業員の給与が上がらないこと/理由はこのビジネスのスキームと経営者のマインド】

 

さて、ここからは、私が考える学童民間委託の最大の問題点の話です。

現在働く方には絶望的なお話になりますが、この学童民間委託先で働いている学童指導員の方は、給与が低いまま大きく上がることは基本的には考えられません。

10年・20年とキャリアを重ねて、技術的に大きな成長があったとしても、顧客満足度を大きく上げたとしても、100万円単位で給与が上がることはほぼ無いと言っていいと思います。

その理由として二点挙げられます。

一点目は私が最初に挙げました、このビジネスモデルのスキームにあります。

自治体としては、公務員の方で運営するよりも、安い委託費で運営するために委託をしています。
委託先の法人は、安くとも安定的に委託費をもらうことで、売り上げが立つので安心感があり受託をしています。

ですので、年間の売り上げの上限が事前に決まってしまっているため、いくら活躍をしても大きく給与が増えることがないということなのです。

・このことが初めから見えている仕事で、果たしてモチベーション高く働けるでしょうか?
・ずっと長く働こうと思うでしょうか?

ここに大きな問題があると思います。

二点目は、私も経営者を経験して実感があるのですが、

経営者のマインドが「人件費を減らして利益を残したい」という方向に振れてしまいがち、

ということになります。

経営者としては会社存続のため、日々売り上げ・利益を上げていくというプレッシャーやストレスは、かなり厳しいものがあります。
その時に少しでも利益幅を大きくしよという思考が働き、

・正社員の給与をより低く抑えたい
・正社員契約ではなく契約社員契約にして、賞与や福利厚生費を抑えたい

という人件費を削っていきたいというマインドになりがちなのは、ある意味当たり前です。
私も十分に理解できます。

しかしだからと言って従業員の給与を非常に低い水準のままにしていいということにもなりません。
ここにこの問題の大きな闇があるかと思います。

経営者の方には、従業員の給与を上げることを恐れない、強い意識が求められます。

私の意見。経営者の皆さんへ【根本的な解決策は無い。なので経営者の皆さんには、無茶な給与や雇用体系でないと利益が出ない案件は、受けないで欲しい。それでももし受託した場合には、目先の利益に捉われず持続的に従業員が働ける体制づくりを】

 

今学童保育の受託をしている法人の経営者、あるいはこれから受託を検討している法人の経営者の方へ。

すべての利益を計算した上で、一旦立ち止まって考えてみませんか。

御法人にとってこの「学童保育運営受託事業」を行う意味は本当にあるでしょうか?
委託料に惑わされていないでしょうか?

そして、
何年もキャリアを重ねても給与が上がる可能性が低いこの事業を、受託する意味は本当にあるのでしょうか?
この事業は、本当に従業員の為になるのでしょうか?

今一度、よくよく考えて頂けたら幸いに思います。

そして、国や地方自治体に対しても、もっと保育事業に投資をしてもらいたいと思います。
このまま安い給与で使い倒すスキームを続けると、間違いなく業界が衰退します。(個人的にはとっくに衰退は始まっていると感じています)

まあ衰退しても何も思わない方々が多いのかもしれませんが、心ある政治家や官僚の方々に、ぜひ頑張ってもらいと思います。

ちなみに私も経営者時代、民間委託の話しを聞いた事がありました。
しかし熟考した結果、受託事業への参入をやめました。

それは、今いるそしてこれから働くであろう従業員が幸せにならないと思ったからです。

事前に決まった額を頂ける運営委託料は、喉から手が出るほど欲しかった。
しかし最後は参入を見送りました。

学童民間委託の問題は、すぐに大きくは変わりません。
少しずつ良い方向に変わり、働く従業員の皆さんが皆幸せに、長く働けるようになる様な状況になることを願っています。